自動運転車はタクシーに勝てないのか?

 昨日に引き続き自動運転車の話。

 国沢光弘という自動車評論家の人がいる。私は別にこの人が嫌いというわけではなく、よく自動車のコラムなんかを楽しく読ませてもらっているし、なんの悪い印象もない。

 しかし、なぜか国沢光弘さんは自動運転車が嫌いなようで、自動運転なんて無理無理みたいなことを言い続けている。まあ、別に国沢さんが無理って言っても自動運転の実現になんの障害にもならないので全く構わないのだが、ちょっと無理筋というか冷静な議論になっていない部分もあるので私なりに彼の意見を検討してみたい。

 彼は、移動手段として最も重要なのは移動のコストであるが、自動運転車はコストの面でタクシーは勝てないと断言している。

 その理由として、羽田から新宿まで首都高を使うと22km30分程度でタクシー料金は7200円。タクシー運転手の時給は2000円程度で乗っているのは30分間だけだから羽田から新宿に行くまでのタクシー代における人件費は1000円程度にしかならず、1000円しか安くならないのであれば自動運転の意味なくない?今のタクシー車両と全く同じコストで自動運転車を作れたとしても大してタクシー代は安くならないよと。

 このタクシーの運転手の時給計算の根拠としているのが、タクシー運転手の平均年収が300万程度で年間150日で日給2万、1日10時間稼働で時給2000円としている。

 国沢さんは自動車評論家だけどタクシー業界のことは多分何も知らないで書いてしまったのだろう。タクシーの運転手が時給で働いていると思って計算してしまっている。

 基本的にはタクシーの運転手は歩合である。

 乗務給やアシキリ、歩合率の話をすると完全歩合ということにはならないのだが、一般の人に説明するにはタクシーの運転手の給料は歩合制と言った方がイメージしやすい。

 労働基準法を守るため完全歩合給とは言えないので、乗務給やアシキリという小細工をしているが、普通の人の感覚では完全歩合制と言えるだろう。少なくとも時給計算できる給料ではないのだ。

 さて、ではタクシーの運転手はどれぐらいの歩率なのだろうか。40~65%ぐらいである。

 ぐらいであるというのはアシキリ(一日のノルマ)を超えた分については65%の歩率になり、超えない分については40%となる。しかし、たまたま乗ったタクシーのその日の売り上げがアシキリを超えているかいないかということなど運転手以外誰にも分らないし、トータルすれば計算上おおむね50%ぐらいになることが多いので、普通は歩率50%ぐらいという計算をしても大きく外れることはない。

 タクシーの運転手が歩合給だということを国沢さんがわかっていれば時給で計算することはなかったのだろうが、歩合で計算すると7200円のタクシー料金の内3600円が人件費である。この意味は大きい。国沢さんの数字の3.6倍だ。

 さらに国沢さんは想像もしなかったのだろうが、タクシーの運転手は1台のタクシーを二人で共有する。つまり朝から次の日の早朝まで(21時間勤務) 勤務して、運転手は休みになるのだが、タクシーの車両は休まない。次の日は違う運転手がまた21時間勤務して休み、また交代する。これをちょっと形を変えて組み合わせ(出番、明け、出番、明け、公休とかね)、二人の運転手が一か月12日間づつ勤務するのである。つまり運賃における人件費と車両費の割合の関係で言うと車両費の割合は半分になるのだ。

 さて、国沢さんはタクシーの運転手の年収を300万と見積もっておきながら、東京の羽田から新宿という計算をしていた。しかし、300万は全国の平均で東京タクシー運転手の平均は400万だ。まあ、それは良いのだが、東京での例を出している以上、私の計算にはちゃんと400万という東京の数字を使う。

 1人の運転手の売り上げは1か月65万円程度だ。その半分の32.5万円が給料となる。1台を2人で共有しているのでタクシー1台の売り上げは130万円となる。

 年間に直すと1台のタクシーの売上は1560万、その内二人の運転手に払う人件費は780万(一人当たり390万)となる。なんとタクシー会社としては自動運転車に切り替えると1年間で780万円も節約になるのだ。

 そしてこれが5年続けば3900万、もしもタクシーを10年稼働させたら7800円もの節約になる。

 もっと言いましょうか。会社は運転手に払う給料以外に健康保険,厚生年金,雇用保険,労災保険(労災保険については全額会社負担)についても半額負担しており、さらに社員寮や家賃補助等々の福利厚生費も馬鹿にならない。
そこまで計算すると会社の福利厚生にどれだけ力を入れているかによって変わるものの、二人の運転手を雇うと10年間で1億前後はかかってしまう。

 さて、普通のタクシーの車両価格は200万円ぐらいだ。自動運転車が普通の車よりも割高でも10年使えて1億円以下ならタクシー会社にとっては利益になるわけ。5年しか使えないとしても5000万円以下で利益になる。

 そして、一番滑稽だったのが国沢さんが最も重要だとする移動のコスト。今、ずっと移動のコストの計算をしてきたわけだが、この車を移動させることのコストを安くさせる意味は誰のためかということだ。

 当たり前だが、これはタクシーに乗る人ではなく、タクシー車両を自動運転車にするか運転手が運転する今までの車両にするかを判断するタクシー会社にとってのコストなのだ。タクシーに乗る乗客にとっては自動運転車だろうが運転手の運転する車だろうが、目的地につけばどちらだって構わないのだ。だって、タクシー料金は国が決めていてタクシー会社が勝手に決めて良いものではないので、自動運転だろうが運転手の運転だろうが同じ運賃にしかならないのだから。

 このタクシー会社にとっての車を移動させるコストが安くなれば自動運転車がタクシーとして普及するだろうし、人間が運転した方が安ければ普及しない。単純なことだ。そしてもしタクシー会社にとっての移動コストが相当に安くなれば、運輸省もタクシー料金を現行よりも安くする可能性もある。そしてそれを乗客が支持してタクシーの利用が増えてさらに普及し、さらに安くなっていくのだろう。

 多分ね、国沢さんは車や車の運転、そして今の車社会が大好きなんだろうな。だから目が曇ってしまっているのだろう。悪気はないような気がする。

 確かに、東京のタクシーの話をしているのに、東京の最も高いタクシー運転手の給料ではなくて地方のタクシー運転手の安い給料まで含めた全国平均給料で計算するのは故意としか思えない。

 でも、タクシーの運転手が時給でなくて歩合で給料が決まるのは誰でも知っている(と私は思っていた。父親がタクシー運転手だったので子供の頃から話は聞いていたから)し、知らなくてもちょっと調べればわかることだ。一台の車両を複数のタクシー運転手が使って運転手が休んでいる間でも他の運転手が同じタクシーを使ってるから、車両の価格と人件費の割合の計算するならばそこを考慮しないと車両費の割合が倍になってしまうことも少し考えればわかるし、人を雇えば給料以外で福利厚生費がかかるのも常識だ。さらに言えば、そもそもそのコストの負担は第一義的に車両を購入するタクシー会社の問題なのに、乗客の払う運賃の話になってしまっている。人件費が安くなってもその分を全て乗客に還元したら(実際は運輸省が運賃の下限を決めているから還元したくても出来ないけど)タクシー会社は高い自動運転車を購入したら赤字になるから買うわけがない。そんな意味のない仮定をして何を説明したいのかがわからない。

 故意に書いているなら、もっと上手に騙すだろう。あまりにも稚拙な間違いや勘違いをしているから、これはもう自動運転憎しで正常な判断力の元に書いたとは思えないのだ。

 みなさんも是非国沢さんのコラムの全文を読んでみて欲しい。国沢さんの名前とタクシーで検索すればすぐに読めるだろうから。

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